福岡県大川市 佐賀市

現存する日本最古の昇開式可動橋

夕日に映える筑後川昇開橋

「どこから来んしゃったね?」
その橋の中ほどまで歩くと、二人の職員が楽しげに迎えてくれた。しばらくして、唸るようなサイレンを響かせながら、20mほどもある中央の橋桁がゆっくりと上昇した。

九州最大の河川である筑後川。その河口の有明海から数キロ上流に「H」の形のような巨大な鉄塔が備わる赤い鉄橋が架かっている。筑後川昇開橋だ。現存する日本最古の昇開式の可動橋で、2003年に国の重要文化財にも指定されている。

福岡県大川市と佐賀市(旧諸富町)を結ぶ筑後川昇開橋は1935(昭和10)年に旧国鉄佐賀線の鉄道橋として建設された。かつて、この辺りは九州最大の米の物流拠点として栄えた若津港があり、大型船舶が年間数百隻以上も往来していた。さらに日本一といわれる干満差の大きい有明海の影響で、小さな船でも満潮時には橋の下を航行することが困難になる。このため橋桁の一部を上昇させ、船舶を通すことができる昇開式の可動橋が建設されたのだ。

  • 橋に常駐する職員が可動桁を昇降してくれる

筑後川昇開橋は鉄道と船舶という二つの交通を両立させる大きな役割を果したが、モータリゼーションの到来によって列車需要が落ち込み、1987年に佐賀線は廃止された。それと同時に撤去する方針が打ち出されていたが、長年、地域のシンボルとして愛されてきた筑後川昇開橋は保存を求める市民運動の高まりによって、10年近い議論の末、1996年に遊歩道として整備されることとなった。

かつてSL が走っていた頃の筑後川昇開橋

土木遺産の利活用に詳しい日本大学・生産工学部の永村景子専任講師は「歴史的・技術的な価値はあっても老朽化などでその保存に苦慮している自治体が多い中、筑後川昇開橋は観光資源として存続された幸運な例。後世に残すべき価値ある土木遺産の利活用は地域社会や産官学が連携して考えるべき課題」と話す。

現在は、大川市と佐賀市による観光財団が運営する筑後川昇開橋。橋の両岸にはカフェや道の駅があり、休日には多くの観光客が訪れる。時折見ることのできる夕暮れ時のシルエットは息をのむほど美しい。

メタルワングループ広報誌 Value One 2023 No.79より