西脇
刀鍛冶を祖に包丁や鋸、鉋、鋏など様々な道具へと進化してきた日本の伝統工芸である打刃物。鍛冶の多くは先祖代々、家業として受け継がれ、その技法や精神も自分の子へと伝承されてきた。しかし、全国の主要産地で鍛冶職人の高齢化が進み、ホームセンターで買える安い工業製品にも押され、一つひとつが手造りの打刃物はその存続さえも憂慮されている。
そうした中、鉄のモノづくりの面白さに魅せられ、この世界に飛び込んだ稀有な若手鍛冶がいる。兵庫県西脇市の鉋鍛冶である内橋圭介氏。内橋氏は高校卒業後、大工道具の産地として約400年の歴史を誇る同県三木市の鉋鍛冶で5年間学んだ後に独立。廃業した鍛冶職人からハンマーや鋏などの道具を譲り受け、自宅近くに工房を建てた。
「鍛冶の仕事は本当に面白くて楽しい」と話す内橋氏。三木の伝統的な鍛冶技法を踏襲しつつも、研究と工夫を重ね、今では大工にも評判高い「圭三郎」ブランドの鉋を世に送り出している。「鉋をつくる技術だけなら1年もあれば習得できる。それよりも、同じ品質のものをつくり続けることの方が難しい」と従来の常識にとらわれないアプローチで鍛冶の道を究め続けている。
創業100年近い東京・三軒茶屋の土田刃物店。全国の鍛冶職人がつくる大工道具の販売を手がけ、早くから内橋氏ら若手鍛冶の仕事に注目してきた土田昇社長は「高齢化が深刻なこの業界にあって、内橋君のような若手が頑張ってくれているのは頼もしい。彼の鉋はオーダーしても2年待ちで、技術レベルも素晴らしい」と高く評価する。
自作の鉋を使ってくれている大工や土田社長らの意見にも耳を傾けつつ、さらなる高みを目指す内橋氏の次の目標は「いつか若い職人を育てること」。若くして独立した自身の経験を活かし、鍛冶を志す人材を育てる養成システムにも興味を示す。
伝統にとらわれない柔軟な発想や「とにかく面白くて、楽しいことがしたい」という好奇心が鍛冶の世界に明るい未来を照らしている。
メタルワングループ広報誌 Value One Winter 2020 No.67より