杉並
東京都杉並区堀之内にある妙法寺。1618年頃に建てられた日蓮宗の寺院である妙法寺は江戸時代から庶民の間で「堀之内のお祖師さま」と親しまれ、今も厄除けのお寺として全国から大勢の参詣者が訪れる。
その妙法寺の境内に1878年(明治11年)に建造された古い鉄門がある。扉は西洋の伝統的なデザインであるアカンサス文様で、扉上には日本古来からの瑞鳥である鳳凰を冠するなど和洋折衷のコントラストが鮮やかな鉄門である。鉄が国産化されていないこの時代において、貴重な鋳鉄製の門であり、その斬新なデザインも相まって、見物に訪れる人も多かったという。
その設計を手がけたのが鹿鳴館など数々の有名建築を手がけ、日本の近代建築の父とも呼ばれる英国人のジョサイア・コンドルである。
コンドルは、日本の近代化に必要な西欧の先進技術や知識を得るために明治政府が招聘した、いわゆる「お雇い外国人」として、1877年に来日した。工部大学校造家学科(現在の東京大学工学部建築学科)の教授に着任したコンドルは鹿鳴館をはじめ、ニコライ堂、三菱第一号館(2009年に三菱一号館美術館として復元)、旧岩崎邸庭園、旧島津家本邸(現清泉女子大学)、旧古河庭園など生涯で100を超える建築に携わった。また、東京駅や日本銀行本店などを設計した辰野金吾ら数多くの日本人建築家を育成し、明治以後の日本建築界の基礎を築いた。
そのコンドルが妙法寺の鉄門を設計したのは、来日した翌年のこと。進取の精神に富んだ妙法寺は文明開化の機運にも乗り、日本寺院としてはほとんど例のない鋳鉄製の門を工部省に依頼。もともと日本の美術や建築に深い造詣のあったコンドルが設計を任されたと思われる。
その歴史的価値が認められ、1973年に国の重要文化財に指定された妙法寺の鉄門。生涯を日本で過ごし、日本文化を愛し続けたコンドルの記念碑的な作品でもある。
メタルワングループ広報誌 Value One Summer 2020 No.69より