奈良県吉野町
満開の桜の中をゴトゴトと音を立てながら駆け上がっていく。吉野山ロープウェイ。世界遺産の町であり、日本有数の桜の名所でもある奈良県吉野町。その玄関口で人々を迎え入れ、紀伊山地の霊場へと導いてくれる、現存する日本最古のロープウェイだ。
吉野山ロープウェイは1929年(昭和4年)に開業した。近鉄吉野駅近くの千本口駅から吉野山駅間の約350m、高低差約100mを運行している。ロープウェイは「索道(さくどう)」とも呼ばれ、吉野山では空中に架けられたワイヤーロープ(支索)にゴンドラを吊るし、別のロープ(曳索)を使ってモーターで引き上げる方式を採用している。ロープウェイの歴史は長く、日本では600年以上前から橋のない川の両岸に綱を張った「野猿(やえん)」という原始的なロープウェイも存在していた。
現在、国内では観光地やスキー場でしか見られないロープウェイだが、コロンビアやブラジル、ボリビアなど中南米の都市を中心に日常的な市民の足として活躍している。標高約1,500mの高地にあるコロンビアのメデジン。2004年に鉄道やバスと接続したロープウェイを導入すると、山の斜面に住む貧困層の都心へのアクセスが大幅に改善し、彼らの生活向上にも大きく寄与したという。
都市交通計画に詳しい名古屋大学・未来社会創造機構の早内玄・特任助教は「ロープウェイの魅力は高低差など地形の影響を受けずに比較的低コストで設置できる点にある。少子高齢化を迎えた日本においても、電車やバスで対応できないトランスポーテーションギャップを埋める交通手段として、ロープウェイは有効な選択肢になり得る」と期待を寄せる。
横浜・みなとみらい21地区。2021年に開通した都市型ロープウェイ「ヨコハマ・エア・キャビン」はJR桜木町駅から赤レンガ倉庫のある運河パークまでの約630mを結ぶ。高層ビルや遊園地を背景に次々とロープウェイが行き来する。未来都市を彷彿させるその景観は次世代の都市交通をデザインするためのヒントに満ちている。
メタルワングループ広報誌 Value One 2023 No.80より