美濃

現存する日本最古の近代的吊橋

ライトアップされた美濃橋

日が暮れて、輝くように赤くライトアップされた美しい吊橋が長良川の川面に映えている。河原にはソロキャンプを楽しむ人たちの小さな焚火も揺れている。

岐阜県美濃市。1300年の歴史を誇る美濃和紙で有名な古い城下町である。江戸時代には和紙や木材などを運搬する長良川の水運の要所としても栄えた。長い間、渡し船を使って対岸まで物資を運んでいたが、明治末期に地元から架橋の要望が高まり、1916年(大正5年)に建設されたのが美濃橋である。

美濃橋は全長113m、幅3.1mで、鉄筋コンクリート造りの主塔の高さは9.8m。現存する日本最古の近代的鋼製吊橋として、国の重要文化財にも指定されている。1965年頃までは美濃和紙の運搬などにも使われた道路橋だったが、現在は歩行者と自転車専用の橋として、地元の人々に利用されている。

美濃橋の主塔

その完成から100年が経った2016年、老朽化が目立っていた美濃橋で、大規模な修復工事が行われた。歴史的価値や文化財保護の観点から、できる限り当時の部材を残す形での修復となったが、完成時の図面がなく、構造が不明な個所も多かった。橋桁を吊り下げる鋼製のメインケーブルは、スウェーデンから輸入した原材を東京製綱が加工したことはすでに知られていたが、橋桁の鋼材の製造元は不明だった。しかし、今回の修復工事で、橋桁の塗装をすべて剥がして調べたところ、H形鋼の表面に官営八幡製鉄所(現日本製鉄)を示す「YAWATA」の刻印が見つかったのだ。当時、橋の構造材に使われる鋼材の多くは輸入材だったことから、美濃橋は日本鉄鋼業の歴史においても貴重な産業遺産であることが改めて確認された。

5年に及ぶ修復工事が完了し、2021年3月に再び市民の前にその姿を現した美濃橋。一度に渡れる人数は20人から50人に拡大し、橋には50個のLED照明が設置された。夜空に赤く浮き上がるような幻想的な吊橋は、美濃の新たな観光スポットとして、これからも長く愛されるに違いない。

メタルワングループ広報誌 Value One Summer 2022 No.77より