2021 METAL CULTURE 静岡

清水港テルファー

メタルワングループ広報誌
Value One Summer 2021 No.73より

ショッピングモールに隣接した広場に
保存されている清水港テルファー

清水港の発展を
支えた機械遺産

神戸、長崎と並んで日本三大美港の一つとして知られる清水港。富士山を望み、三保の松原に囲まれたこの港は、人工海浜やショッピングモールなどが整備された憩いの場としても親しまれている。その一角に鋼材が組み上げられた不思議な形をした構造物がある。

「清水港テルファー」である。 清水港は1899年に茶の輸出を目的に開港された。大正時代になり、北洋材の輸入が増え、関東大震災後の木材需要も重なり、国内有数の木材輸入港として発展した。清水港で陸揚げされた資材を全国に輸送するための鉄道駅も設置された。この急増する木材の荷役に革命的な効率化をもたらしたのが「テルファー(telpher)」と呼ばれるクレーンだ。

テルファークレーンはI形鋼のレールに沿って、トロリ(電動ホイスト台車)が移動し、荷物を運搬する仕組みだ。1928年に完成した清水港のテルファーは高さm、上から見てコの字型の鋼トラス構造になっており、トラスの外周レールに沿って、運転台付のトロリがループ状に走行。清水港の沖合に運ばれた木材を海上から吊り上げ、貨車に積み込んでいた。当時の新聞記事によると、清水港ではそれまでコンベヤーで木材を積み込んでいたが、その能率はせいぜい1日1車両だった。 ところが、新設されたテルファーはわずか分で積み込んでしまったというから、その性能は驚くべきものだったろう。
木材の荷揚げで活躍したテルファー
(『清水港開港 100 年史』より)

当時、清水港の他にも同形式のテルファーは名古屋港駅や海神奈川駅など全国6駅に設置されていたが、現存するのは清水港テルファーのみだ。その歴史的価値から2014年に日本機械学会の機械遺産に登録された。調査を担当した石田正治氏(前名古屋芸術大学 講師)は「清水港の近代化はテルファーによって始まった。すべての機械遺産は現代の私たちの豊かな暮らしの礎になっている」と話す。コンテナ輸送が主流になったこともあり、1971年に役目を終えた清水港テルファー。海と陸の物資を結ぶ港湾のシンボルとして、今も往時の姿で佇んでいる。

鉄のある町

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