2020 METAL CULTURE 江東

八幡橋

メタルワングループ広報誌
Value One Autumn 2020 No.70より

140年以上経た今も現役の八幡橋

現存する国産最古の鉄橋

東京・門前仲町。富岡八幡宮や深川不動尊など歴史ある寺社があり、下町情緒あふれる人気の観光スポットだ。

富岡八幡宮の隣にある八幡堀遊歩道に、歩行者専用の小さな赤い橋が架かっている。現存する国産最古の鉄橋であるはちまんばし「八幡橋」である。八幡橋は1878年(明治年)に東京府の依頼により、工部省の赤羽製作所で製作された。もともとは現在の中央区京橋付近にあった楓川に架かる「弾正橋」としてつくられたのだが、関東大震災後の再開発で現在地に移設され、「八幡橋」と改称された。長さ約15m、幅2mの小さな橋だが、鉄橋が珍しかった当時としては文明開化のシンボル的な存在だった。

八幡橋は、アーチ部の上弦材が鋳鉄製、下弦材・垂直材・斜材が錬鉄製という鋳錬混合でつくられている。当時、鋳鉄は国内で生産されていたものの、錬鉄の製造技術はなく、海外からの輸入材を使用したものとみられる。鋳鉄から錬鉄、そして鋼鉄へと進化していく鉄橋の黎明期の技術を伝える貴重な産業遺産でもある。

八幡橋のもう一つの特徴は「ボーストリングトラス」と呼ばれる構造にある。弓(Bow)に弦(String)を張ったような形に見えるこの構造はアメリカ流とドイツ流があり、八幡橋はアメリカの橋梁技術者であるホイップルの考案した「ホイップルアーチトラス」の流れを汲んでいる。その「ホイップルアーチトラス」は現在、本場アメリカでも数橋しか残っ ておらず、八幡橋はその歴史的価値が評価され、1989年に米国土木学会から「土木学会栄誉賞」を受賞している。
米国土木学会から贈られた記念碑

鉄橋の歴史に詳しい橋梁大手・横河ブリッジの掘井滋則・大阪設計第二部長は 「鉄橋は適切にメンテナンスすることで100年以上も使用することができる。設計の自由度が高く、力強さや美しさなど多彩な表情を引き出せるのも鉄橋の魅力」と語る。

朝夕には近隣の小学生やサラリーマンが行き交う八幡橋。国産最古の鉄橋はこれからも地域の人々の暮らしを支え続けていくことだろう。

鉄のある町

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